細見綾子の俳句 セレクト
来て見ればほゝけちらして猫柳|細見綾子|昭和5年作
そら豆はまことに青き味したり|細見綾子|昭和6年作
うすものを着て雲の行くたのしさよ|細見綾子|昭和7年作
でで虫が桑で吹かるゝ秋の風|細見綾子|昭和7年作
どの花を挿しても足らず近松忌|細見綾子|昭和9年作
菜の花がしあはせさうに黄色して|細見綾子|昭和10年作
冬になり冬になりきつてしまはずに|細見綾子|昭和10年作
幼きが草のやうにも昼寝する|細見綾子|昭和11年作
弱けれど春日ざしなり夢殿に|細見綾子|昭和12年作
元日の昼過ぎにうらさびしけれ|細見綾子|昭和13年作
チューリップ喜びだけを持つてゐる|細見綾子|昭和13年作
春暁のうす紙ほどの寒さかな|細見綾子|昭和13年作
ふだん着でふだんの心桃の花|細見綾子|昭和13年作
つばめ/\泥が好きなる燕かな|細見綾子|昭和13年作
九頭龍の洗ふ空なる天の川|細見綾子|昭和14年作
寂光といふあらば見せよ曼珠沙華|細見綾子|昭和15年作
暮るゝ空底明るきに棗あり|細見綾子|昭和15年作
きさらぎが眉のあたりに来る如し|細見綾子|昭和16年作
夏帯の単色は吾が性となり|細見綾子|昭和16年作
遠雷のいとかすかなるたしかさよ|細見綾子|昭和17年作
まぶた重き仏を見たり深き春|細見綾子|昭和18年作
帰り来し命美し秋日の中|細見綾子|昭和20年作
藤はさかり或る遠さより近よらず|細見綾子|昭和21年作
鶏頭を三尺離れもの思ふ|細見綾子|昭和21年作
峠見ゆ十一月のむなしさに|細見綾子|昭和21年作
冬来れば母の手織の紺深し|細見綾子|昭和21年作
山茶花は咲く花よりも散つてゐる|細見綾子|昭和21年作
くれなゐの色を見てゐる寒さかな|細見綾子|昭和22年作
桜咲きらんまんとしてさびしかる|細見綾子|昭和22年作
梅漬ける甲斐あることをするやうに|細見綾子|昭和22年作
昨日より今日新しき薺花|細見綾子|昭和23年作
青りんごたゞ一個買ふ美しく|細見綾子|昭和23年作
春雷や胸の上なる夜の厚み|細見綾子|昭和24年作
雉子鳴けり少年の朝少女の朝|細見綾子|昭和24年作
硝子器を清潔にしてさくら時|細見綾子|昭和24年作
暑き故ものをきちんと並べをる|細見綾子|昭和24年作
正月の月が明るい手まり歌|細見綾子|昭和25年作
木蓮の一片を身の内に持つ|細見綾子|昭和25年作
白木槿嬰児も空を見ることあり|細見綾子|昭和25年作
寒卵二つ置きたり相寄らず|細見綾子|昭和25年作
蕗の葉に蟻ゐることも子の歳月|細見綾子|昭和26年作
春泥を歩く汽笛の鳴る方へ|細見綾子|昭和26年作
外套をはじめて着し子胸にボタン|細見綾子|昭和28年作
葉桜の下帰り来て魚に塩|細見綾子|昭和28年作
能登麦秋女が運ぶ水美し|細見綾子|昭和28年作
野分より眠りに入りて夢多し|細見綾子|昭和29年作
冬薔薇紅く咲かんと黒みもつ|細見綾子|昭和29年作
生くること何もて満たす雉子食ひつつ|細見綾子|昭和30年作
鴨打ちの下げたる鴨の目は見ざり|細見綾子|昭和30年作
鰻裂くを一心に見ていぶかしむ|細見綾子|昭和31年作
蕗の筋よくとれたれば素直になる|細見綾子|昭和32年作
枯野電車の終着駅より歩き出す|細見綾子|昭和33年作
蜂さされが治れば終る夏休み|細見綾子|昭和33年作
パンを嚙む唾液こまやかみどりの森|細見綾子|昭和34年作
一盃のコーヒーの銭さくら草|細見綾子|昭和35年作
雨の傘たたみて春の灯を流す|細見綾子|昭和35年作
雪解川烏賊を喰ふ時目にあふれ|細見綾子|昭和36年作
すみれ植うことに心を集めたし|細見綾子|昭和37年作
蕗の薹喰べる空気を汚さずに|細見綾子|昭和37年作
胸うすき日本の女菖蒲見に|細見綾子|昭和38年作
鶏頭の頭に雀乗る吾が曼陀羅|細見綾子|昭和39年作
柿の朱を点じたる空こはれずに|細見綾子|昭和39年作
餅のかびけづりをり大切な時間|細見綾子|昭和40年作
冴え返る匙を落して拾ふとき|細見綾子|昭和40年作
青梅を洗ひ上げたり何の安堵|細見綾子|昭和40年作
もぎたての白桃全面にて息す|細見綾子|昭和40年作
椿切るために光れる鋏欲し|細見綾子|昭和41年作
百合咲きていまだ花粉をこぼさざる|細見綾子|昭和41年作
卯辰山が紅葉するよと金沢人|細見綾子|昭和41年作
木綿縞着たる単純初日受く|細見綾子|昭和42年作
寒夕焼終れりすべて終りしごと|細見綾子|昭和42年作
幾度もつまづく木の根万燈会|細見綾子|昭和43年作
虹飛んで来たるかといふ合歓の花|細見綾子|昭和43年作
枯れに向き重き辞書繰る言葉は花|細見綾子|昭和43年作
木蓮のため無傷なる空となる|細見綾子|昭和44年作
仏見て失はぬ間に桃喰めり|細見綾子|昭和44年作
赤多き加賀友禅にしぐれ来る|細見綾子|昭和44年作
女身仏に春剥落のつづきをり|細見綾子|昭和45年作
青梅の最も青き時の旅|細見綾子|昭和45年作
砂糖水を欲する時刻夫にあり|細見綾子|昭和46年作
祭すみ太鼓ころがしゆきにけり|細見綾子|昭和46年作
鶏頭は次第におのがじし立てり|細見綾子|昭和46年作
疲れ鵜の漆黒を大抱へにし|細見綾子|昭和47年作
水仙の切り時といふよかりけり|細見綾子|昭和47年作
真をとめの梅ありにけり石の上|細見綾子|昭和48年作
ぱらついて雨は霞となつてしまふ|細見綾子|昭和48年作
山百合が目覚めといふをくれにけり|細見綾子|昭和48年作
早稲刈りにそばへが通り虹が出し|細見綾子|昭和49年作
春の雪青菜をゆでてゐたる間も|細見綾子|昭和50年作
牡丹の芽筆ほどといふしか思ふ|細見綾子|昭和50年作
膳運ぶ長き袂や風の盆|細見綾子|昭和50年作
古九谷の深むらさきも雁の頃|細見綾子|昭和51年作
螢火の明滅滅の深かりき|細見綾子|昭和52年作
蕗の薹見つけし今日はこれでよし|細見綾子|昭和53年作
年の瀬のうららかなれば何もせず|細見綾子|昭和53年作
木曾川を見おろして城冴え返る|細見綾子|昭和54年作
風にとぶすすき描かれゐたりける|細見綾子|昭和54年作
いくたびも秋日のよさを言はれけり|細見綾子|昭和55年作
蟻あまた見し日と日記しるしたり|細見綾子|昭和56年作
曼陀羅の地獄極楽しぐれたり|細見綾子|昭和57年作
水餅の水替ふこともくらしかな|細見綾子|昭和58年作
天然の風吹きゐたりかきつばた|細見綾子|昭和60年作
雨の日を灯ともし色の枇杷貰ふ|細見綾子|昭和60年作
牡丹にものいふごとき七日かな|細見綾子|昭和61年作
どんぐりが一つ落ちたり一つの音|細見綾子|昭和61年作
老ゆることを牡丹のゆるしくるるなり|細見綾子|昭和62年作
ぬかご飯二度炊きし二度味ちがふ|細見綾子|昭和62年作
桜の実わが八十の手を染めし|細見綾子|昭和63年作
キャスリン・バトル虹立つやうに唱ひたり|細見綾子|昭和63年作
海はみどりと聞きて秋思のさだまりぬ|細見綾子|平成元年作
牡丹咲きどこへも行かず十日あまり|細見綾子|平成2年作
えごの葉をきつちりたゝみ落し文|細見綾子|平成2年作
今は散るのみの紅葉に来り会ふ|細見綾子|平成4年作
花野見に花野の上の空を見に|細見綾子|平成5年作
再びは生れ来ぬ世か冬銀河|細見綾子|平成6年作
鑑真と母へ最後の牡丹挿す|細見綾子|平成6年作
門を出て五十歩月に近づけり|細見綾子|平成6年作
病む人に春の光を贈りたし|細見綾子|平成7年作
香水に縁なき暮し一生涯|細見綾子|平成7年作
武蔵野は青空がよし十二月|細見綾子|平成7年作
吾亦紅ぽつんぽつんと気ままなる|細見綾子|平成7年作
細見綾子
沢木欣一の俳句 セレクト